スポーツのすゝめ vol.05

人に勝つよりも自分に勝つことが快感だった アテネオリンピック競泳自由形金メダリスト 柴田 亜衣さん

プロフィール

2004年アテネ五輪女子800m自由形で金メダルを獲得。五輪女子自由形での金メダル獲得は日本人初の快挙だった。2005年鹿屋体育大学を卒業し、デサント入社。同時に、鹿屋体育大学大学院修士課程へ進学。2007年世界水泳選手権メルボルン大会で達成した400mと1500m自由形の日本記録は現在も破られていない。2008年現役引退。現在は、水泳の楽しさ、水との親しみ方などを伝える伝道師として全国各地で活動中。一人でも多くの水泳やスポーツが苦手な小学生をなくすために、全国の小学校へも精力的に出向き、独自で考案したプログラムも含め、子どもたちに指導を行っている。

脚は遅い方で、鉄棒も苦手。体育は得意科目ではなかった。

Q1.水泳を始めたきっかけを教えてください。

A1.3歳の時に姉と共に地元のスイミングスクールに通い始めました。母と姉が行くのに付いて行ったという感じです。初めから凄く上手だったわけではなかったのですが、小学生になる頃には全ての種目を泳げるようになっていました。そこである程度満足したからか、一度は水泳をやめました。父の仕事の関係で福岡から徳島に引っ越したのですが、たまたまスイミングクラブが近くにあったので、もう一度水泳を始めることになったのです。もし、近くにクラブがなかったら水 泳を再開していなかったと思います。

Q2.水泳以外にはどんなスポーツをしていましたか?

A2.幼稚園の時に一時期体操教室に通っていましたが、特に上手だった記憶はありません。小学生になっても鉄棒などは大の苦手でしたし。身体を動かすことは好きだったので、ケイドロやドッジボールなどは楽しんでやっていました。でも、脚が遅かったのでサッカーなどには参加しませんでしたし、バレーボールなども敬遠していました。決して運動能力の高い子どもではなかったと思います。通知表の体育は、水泳がある時期は点が良かったのですが、水泳がない冬は5段階評価で2か3だったと思います。

Q3.長距離の選手になったのは自らの選択だったのですか?

A3.小学生の時は種目を限定せずに大会などに出ていましたが、中学1年生から、クラブのコーチに勧められて自由形の長距離に専念するようになりました。自由形は一番好きな種目でしたが、長い距離を泳ぐのは疲れるので嫌でした(笑)。水泳の花形は50m、100mなどの短距離という意識もありましたので、初めは乗り気じゃなかったですね。大会の時なども長距離種目になると観客が席を離れてしまい、明らかに観る人が少なくなるんです。でも、短距離の方はあまり速くなかったので、現実的な選択だったと思います。

コーチを信じて付いて行くことでスイマーとしての土台づくりができた。

Q4.コーチは柴田さんにとって
どんな存在でしたか?

A4.中学3年生の時にコーチに「オリンピックを目指そう!これからきつい練習を始めるぞ!」と突然宣告されたんです。とても厳しいコーチだったので逆らうのが恐くて、「はい、やります!」と言ってしまいました。現実とオリンピックに出場するために必要な記録とのギャップがあまりにも大きくて、「コーチは何を言ってるんだろ~?」と思いながらも、練習を開始しました。その時から毎朝1500mを5~6本泳ぐという練習を高校3年生まで続けました。成果が直ぐ現れたわけではありませんでしたが、この練習がスイマーとしてのベースをつくってくれたと思います。

高校までは完全にやらされている状態でしたが、それで良かったと思っています。あのハードな練習は優しいコーチだったら続けられなかったと思います。朝練習は5:30からでした。コーチは私一人のために5:00にはクラブに来てくれていました。選手のことを本気で考えてくれるコーチだったと感謝しています。
大学から師事したコーチもオリンピック選手を何人も育てている方で、全幅の信頼を寄せていました。コーチが考案した練習メニューをこなせば強くなると信じていましたし、実際に結果もついてきました。
私は練習メニューを自分で考えるタイプではありません。あれこれ余計なことを自分で考えるより、コーチの指示に従う方が楽ですし、経験と実績を兼ね備えているコーチ に従う方が理にかなっていると考えていました。
コーチに恵まれた幸せな競技人生だったと思います。

Q5.アスリートとして最もこだわっていたことは何ですか?

A5.自己ベストの更新を常に目標にし、成し遂げると大きな達成感を得られました。レースに勝っても自己ベストが出ないと、嬉しさが半減する程でした。逆言うとそれ以外にはあまり関心がなかったので、順位やライバルに勝つといったことに闘志を燃やすことはありませんでした。
日本代表に選出されるようになっても直ぐにその感覚は変わらなかったのですが、ある出来事を境に心境に変化が起こりました。バルセロナで行われた世界大会で予選落ちし、決勝のレースを観客席で観ていました。その時ふと思ったのです。自分は何のためにここにいるのだろう?これでは日本でテレビを観ているのと一緒だと。決勝の舞台で泳ぎ、自己ベストを出したい、そう思うようになったのです。照準をアテネオリンピックに合わせ、1年間猛特訓をしましたが、目標はメダルではなく決勝に出ることでした。
予選を突破できた時にはさすがにメダルを意識しましたが、何色でもいいから獲れたら嬉しいな~という程度の感覚でした。400mは予選・決勝共にベストを出していました。800mは予選でベストが出せなかったので決勝では自己ベストを出したいと強く思っていました。

Q6.金メダルを獲れた一番の要因は何だと思いますか?

A6.金メダルを意識しなかったのが良かったのだと思います。自己ベストの更新を狙って頑張ったら、メダルが付いてきたという感覚です。その後800mはメダルや結果を意識するようになってしまい、アテネの後の3年間は自己ベストを出すことができなくなってしいました。
自分のスタイルを見失ってしまったのです。

Q7.緊張感はどのようにコントロールすればよいのでしょうか?

A7.緊張しない人はいないと思うんです。だから、緊張を抑えようとするよりも、緊張はプラスなんだと思う方が得です。アテネ・オリンピックの時に先輩が教えてくれました。「最高のパフォーマンスには適度の緊張とリラックスが必要。緊張してきたらネガティブに捉えないで、よし来た~と思うようにすると良い」と。それを一緒に聞いた男子陣がふざけて「来た~来た~」と叫ぶようになって、日本チーム全体がリラックスでき ました。

常に前を向いている方が目的地に早く着ける。反省は明日に持ち越さない。

Q8.柴田さんにとっての水泳の醍醐味とは?

A8.水泳は自分の努力が記録という明確な結果になって表れる競技です。レース中は誰にも邪魔されませんが、チームメイトが助けてくれることもない。人に採点されることもなく、全て独りで完結する。そんなシンプルさが気に入っています。自己ベストを出してもそれに満足することなく、さらに高みを目指して練習を重ねる。するとまた自己ベストの更新というご褒美にありつける。そのサイクルにはまりました。
どんなに優秀なアスリートでも幼い頃から常に勝ち続けられるわけではない。負けることから何かを学んで成長していくんです。それを幼い頃から数多く経験できるのがスポーツの良いところだと思います。

Q9.ご両親はどんな存在でしたか?

A9.両親は水泳については何も口を出しませんでした。私にはそれがありがたかったですね。子どもは良いことがあると自然に自分から話し出すものです。親はそれを聴いてあげるだけで十分。自分から何も話さない時は、コーチに怒られたりして話したくない時だと察して、そっとしておいてあげるべきだと思います。練習でコーチに怒られて、家に帰ってまで親にガミガミ言われたら子どもが可哀そうです。親が専門家でもない限り、始めてしばらくすれば子どもの方が競技に詳しくなります。親の言うことに聞く耳を持てなくても無理はないのです。
私の両親はいちファンとして応援してくれるとともに、心地よい距離感で温かく見守ってくれました。子どもの頃のレースの映像などが全く残っていないのは少し残念ですが(笑)。

インタビューを終えて

柴田さんが自己ベストを更新し続けるアプローチは、ビジネスに置き換えるとPDCAサイクルに似ていると感じました。計画を立て、実行し、結果を自己評価し、改善を重ねる。柴田さんはこのサイクルを回し続けることで自己ベストを更新し続け、金メダルに辿り着きました。 子どもにスポーツをさせる親は誰しもが、スポーツを通してこのような好ましい習慣が身に付くことを願うのではないでしょうか。では、親は何をすべきか?決して余計な口出しはせず、温かく見守ることだそうです。柴田さんのご両親だけでなく、今日本の水泳界で活躍している選手のご両親は、皆さんそれができた方々だそうです。(2011.7.22)

NPO法人SKiP理事長 新井茂

information

千葉県国際総合水泳場にて <http://www.chiba-swim.gr.jp/>

スペシャルレッスン(初級~中級、中級~上級)

10月24日 11:00~  13:00~
11月28日 11:00~  13:00~
12月12日 11:00~  13:00~

大会前レッスン(レース前のウォーミングアップと心がまえ)

 9月29日 13:00~14:30
10月14日 15:30~17:30

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